CrossCourt 弾性歪解析ソフト
CrossCourt3
はじめに
CrossCourt3 はEBSDパターンを用いた格子歪み(弾性歪み)測定プログラムです。この測定方法はOxford大学のAngus Wilkinson博士を中心にDavid Dingley博士、Graham Meaden博士らのグループによって開発されました。この手法はGraham Meaden博士が運営するBLG Production Inc. (英) により製品プログラム化され、販売されております。格子歪み測定方法はマイクロラマン法、X線法、CBED法などがありますが、EBSDパターンによる歪み測定の特徴は、圧縮/引張、せん断そして微小回転を区別しテンソルとして算出できることです。
測定原理
EBSDパターンは、実格子を反映したパターンで格子が歪めばEBSDパターンもそれに比例してわずかに歪みます。(図1参照)このわずかな変化を測定値近傍で歪みの無いパターンと相互相関関数を用いて比較し、パターンの微小な変化を検出し、歪みに換算します。変化の検出はEBSDパターンを、パターン上に縦横1/4程度の大きさの領域’(ROI) を設定し、測定近傍で得た歪みの無いEBSDパターンの同一場所のROIと比較し、変化を相互相関関数を用いて比較します。左右のROI間の距離が縮まっていれば試料の結晶格子には横方向に圧縮歪みがかかっていることになります。検出はスクリーン上の2次元の検出となりますが、最小限4か所のROIの変化を測定すれば9つのテンソル成分のうち8つの変化を算出できます。垂直成分は[ε22 –ε33 ] および [ε11 –ε33 ] として検出されます。これは試料表面の垂直方向の応力は0となるという境界条件を設定し、分離することが可能となります。以上の経過を経て、9つのテンソル成分を検出しています。
測定事例
次にSi単結晶につけたパーコビッチ圧痕周囲の格子歪みの測定例を示します。測定領域は4×10μm となっており、圧痕の一辺は約3μmとなっています。E11, E22, E33 はそれぞれ横方向、対方向そして紙面に垂直方向の圧縮・引張歪みの様子を示しています。青側が圧縮、赤側が引張に対応します。図中に書いた四角形は、正方形が変形した状況を強調して示した図です。また右下の黒点が参照パターンを得た場所を示しています。この図より紙面の垂直方向に格子が伸びていることが分かります。E12, E23, E31 は、せん断歪みを表しています。E12 は1方向(紙面右方向) に進んだ時2方向(紙面上方向)に変形するせん断歪みを正(+)方向として赤側の色で、負方向を青側の色で表しています。E12の場合は図中に描いた平行四辺形のような変形になります。W12, W23, W31 は各垂直軸周りの回転を示しています。右ネジ方向を正(+)として赤側の色で、逆方向を負として青側の色で示しています。E11のマップ中に示した矢印付近で0.04%の圧縮歪みとなっています。
仕様
本ソフトウェアの仕様は次のようになっています。
格子歪み測定原理 | 参照パターンとの変化を相互相関関数により検出し、測定した結晶方位より、格子歪みに換算します。 |
格子歪みの計算 | 変形マトリクスより、歪みテンソル部分と剛体回転部分に分離し、垂直歪み成分、せん断歪み成分、そして回転成分として表示します。また計算に当たっては測定試料表面は平面応力状態にあり、パターンの発生領域では応力状態は均一であると仮定して計算しています。 |
取込パターン | 256×256 ~ 2048×2048 |
歪み検出限界 | EBSDパターンのサイズおよび質に依存します。 1024×1024 程度のパターンで、条件が良ければ0.03%程度の格子歪みの検出が可能となります。 |
多結晶試料の解析 | 可能 (各結晶粒ごとに参照パターンを設定) |
導入環境(PCの条件)
本ソフトウェアの導入に当たっては、PCは次の要件を満たしていることが必要となります。
OS | Windows7 (64bit) |
Display Size | 1280 x 1024 またはそれ以上 |
CD/DVD Drive | 装着されていること。 |
CPU | マルチコアCPU (4コア以上が望ましい) |
RAM | 12GB (Windows7(64bit) の場合) |
付属ソフト | Microsoft Excel 2010 またはそれ以降のバージョン |
本ソフトウェアは非常に計算の比重の高いソフトで、また多くのメモリーを使用します。したがって、Windows7(32bit) では、使用できるメモリーの制限から測定点数で10000点程度に制限されます。また、多結晶体ではこの値はさらに少なくなります。