TEM用 液中試料作成装置 (Naiad/vitro TEM社)

液中試料観察の一般的な方法

液体中に存在している試料の観察には、一般に図1に示すように SiN のような隔膜 を用い試料を液体とともに封じ込め、高真空下に入る TEM 試料ホルダーにセットする必要があります。
しかしこの場合は隔膜間を薄くすることが困難で、試料が下側の隔膜に張り付いたような状況でない限り 高分解能観察は望めません。また、試料のセットも かなり難しいものがあります。

Naiad では、この隔膜の代わりにグラフェン単層膜を用い、直接試料を溶媒 (水) とともに包み込むことで、液中試料を簡便に観察可能にするものです。

グラフェン単層膜は、非常に薄い (約 0.3nm) ものですが、その強度は 鉄の数十倍 あり、また電気伝導性、熱伝導性にも優れているという 極めて優れモノ です。しかしあくまでも単層膜ですから、保持できる SiN の隔膜のように一定の大きさ全体をカバーするわけではなく、数百 nm 程度の範囲の 水たまりを保持している ようなイメージとなります。
まず 2µmφの穴 を周期的に開けた Holly カーボン膜を張った Cu または Au グリッド を用意し、そこに グラフェン単層膜を張ったものを用意 します。
次に液中試料をこのグリッドに載せ、上からもう一枚の グラフェン単層膜をかぶせ ます。
そして 余分な水溶液を濾紙で吸い取ります。これにより 上下のグラフェン膜が密着し、液中試料を閉じ込めます。グラフェン単層膜自体は ファン・デル・ワールス力 により密着します。ちょうど 食品用ラップフィルムどうしがくっつく ようなイメージです。これで 真空を持たせることができます。
試料に被せるグラフェン単層膜は、Cu ディスク上に形成し、使用する際に Cu を酸で溶かし、グラフェン単層膜を遊離 させます。グラフェン単層膜はナノスケールでは 非常に高い強度 を示しますが、
人の手が扱えるミリスケールでは、非常に弱いと言わざるを得ません。そのため手で扱った場合には、微妙な振動等ですぐに破れてしまう場合が大半です。
このため、この試料作製の一連の過程を 自動化したのが Naiad です。

図3に Naiad の試料作製部を示しました が、Flow reservoir の部分で グラフェン単層膜を遊離 し、
Actuated loop で グラフェン単層膜をピックアップ し、専用の TEM grid stage に用意された グラフェン単層膜付き Cu グリッド上の試料 に、このグラフェン単層膜をかぶせて完成します。グラフェン単層膜遊離後は、3 分程度で試料が完成 します。完成した液中試料 [Graphene Liquid Cell (GLC)] は、通常の TEM 試料グリッド同様に取り扱いが可能で、
一般の TEM 試料ホルダーに装着することが可能です。

完成した GLC は次のような特徴があります。
● 試料が極めて薄く(試料粒子の大きさ程度の厚さ) → 高分解能観察が可能
● 完成した GLC 試料は、通常の TEM 試料グリッドと同様に扱える


実際にできた GLC を TEM で観察 すると、図4のように見えます。
これは コロイド状の Au 粒子を希釈し、GLC に閉じ込めたもの で、矢印で示した グレーのコントラスト になっている部分が 水たまりのようになっている 部分です。この中に閉じ込められた試料が 観察対象 となります。このような GLC が 無数にできる ため、その中から適切なものを選択し 観察を進めます。

図5にはフェリチンを室温で観察した例を示しました。フェリチンの周囲には水が存在しており、生の状態での観察となります。
図6にはAuのナノ粒子の観察例を示しました。明瞭な0.23nmの格子像が得られており、液中の環境でありながら、高分解能観察が可能であることが示されています。